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賃貸経営こそ「おもてなし」目線で

2023.02.15公開

クレームも滞納もゼロ

過去8年間、クレームも滞納もゼロという大家さんがいる。越水隆裕さん、44歳だ。2代目オーナーで神奈川県川崎市に、566戸を所有している。安定経営を支えるのは、越水さんが取り組む、入居者へのおもてなし。どのようなものなのか、実際の物件を見て回りながら話を聞いた。

神奈川県川崎市で5棟66戸を経営する越水隆裕さん(44歳)


まず、入居者が決まると必ずやってくる「鍵渡し」に向け、準備が始まる。さりげなく好きな色を尋ね、その色のキーホルダーを用意して鍵につけて渡すのだという。

「丸裸の鍵を渡すより、新生活が始まる、という意識が高まるような気がするんです」と越水さん。

キーケースの中には越水さんの連絡先が書いてある


管理会社の社員が鍵を渡すとき、「キーホルダーはオーナーさんからのプレゼントです」というと、大抵の人が「え?いただけるんですか?」と驚くという。ここで笑顔が出れば、ファーストコミュニケーション成功だ。

入居当日用の日用品プレゼントも欠かさない。ミニボトルのシャンプーやリンス、ボディソープやトイレットペーパー、女性入居者には化粧水や保湿クリーム、ハンドタオルを用意する。トイレットペーパーはあえて柄物にするのがポイント。豹柄や花火柄などインパクト重視で選ぶのだという。

目立つ柄のトイレットペーパーを完備


そう教えてくれているときの越水さんの楽しそうなこと。ドン・キホーテやホームセンターで、「びっくりするかな、笑うかな、歓迎しているって気持ちが伝わるかな」と思いながら、変わった柄を探すのだという。

実体験に基づく万全のトラブル対策

入居中、突然やってくるトラブルにも日頃から準備をしている。経験上、年に2度ほど、給湯器の故障が発生する。その時に備え「スーパー銭湯10枚綴り」を常備している。

連絡が入るとすぐに持っていき、「修理までの間使ってください」と手渡すのだ。車で5分程の近場にスーパー銭湯があることを調べ、このサービスを始めた。こうするようになって、クレームが感謝と感激に変わったと話す。

これほどあの手この手で入居者サービスをしている越水さんだが、その原点は、過去の失敗からきている。

父親から賃貸経営を引き継いだとき、滞納があったのを放置し、気がつけば、その額は360万円に膨らんでいた。

1家族が同じ建物の中に3部屋、駐車場6台を借りていて、7ヶ月間未払いを続けた結果だった。初めて尻に火がついたのを感じた越水さんは、毎日訪問し、引越し費用を越水さんが出す代わりに1部屋は退去してもらい、生活の立て直しを説得した。5万円ずつの返済を取り付けると、毎月自ら集金に出向いた。29歳から33歳までの間、4年かかったが、全額回収した。残金が30万円になったとき、越水さんは同志のようになった入居者に言ったという。

「死ぬまで退去しないで」

その家族は、今でも、2部屋、4台の駐車場を借り、毎月24万円の家賃を支払ってくれる大切な顧客だ。毎年4個も夕張メロンを送ってきてくれる。

2代目オーナーだからこそのプロ意識

親から賃貸経営を引き継いだとき、周囲からはこう言われた。

「いいわね、これからずっと家賃で食べていけるんでしょう」

おもてなしに力を入れるのは、そうした言葉への反発が根底にあるともいう。

「僕たちは暮らしを提供して、その対価としてお金をもらっています。だから、ここに住んでよかったと思ってもらえるために、手を抜くことはできません」

こういう大家さんが増えれば、日本の賃貸住宅はもっと豊かな産業になるだろう。

  入居者さんと一緒に街のゴミ拾いを行う

エントランスで地元で採れた野菜を配っている


※本記事は「武蔵
TIMES 令和4年/4月号 vol.096」(発行:武蔵コーポレーション)に掲載された「吉松こころの不動産最前線」に加筆修正を加えたものです。