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【Vol.8】吉松こころの Go There,Be There「大家さんは変わった!不動産会社はどうだ?!」

2024.01.06公開

 

 

<著者プロフィール>暮らしジャーナリスト・吉松こころ
1977年鹿児島県伊佐市(旧大口市)生まれ。 全国賃貸住宅新聞社に勤務。取締役を経て、2015年に独立。 不動産業界向けのミニ通信社、株式会社HelloNewsを立ち上げ、不動産・建築業界で生きる人々を取材している。

最近、立て続けに残念な話を聞いた。
それは、「せっかくこだわった賃貸住宅を作ったのに、入居希望者にその魅力が伝わっていない」という話だ。
具体的な事例で説明したい。

今年9月、名古屋市に省エネ性能に優れた賃貸住宅が新築された。建築した工務店は、1997年から省エネ住宅事業に特化し、代表者は環境先進国ドイツに10数回渡って断熱・換気・気密を学んできた。3年前には、北海道ニセコ町で賃貸住宅を建設。
UA値(外皮平均熱貫流率、住宅の熱がどれくらいに外に逃げやすいかを示す数値)は、0.190.21W/m2Kと国内最高レベルとなった。冬場、外気温がマイナス15℃になることもある当地で、3LDKでもエアコンは1台あれば十分という性能の良さだ。

そんな工務店が作った賃貸住宅がポータルサイトで紹介されていたのだが、それを見て驚いた。
高性能住宅である説明はどこにもなく、仲介会社が投稿したPR欄には、「今話題の宅配ボックス搭載物件!」と書いてあったのだ。

 似たような話は他にもある。

スターバックスが好きで、これまで2000個を超えるタンプラーを収集してきたというオーナーAさんは、この秋、所有物件の一室を「スタバ部屋」にした。壁一面に200個のタンプラーを吊るし、内装はスターバックスの店舗を再現している。

「自分と同じスタバファンに住んでほしい」と願い、入居者には「毎週コーヒーチケットのプレゼント」をつける予定だ。
しかし、肝心の募集はまだ始まっていない。このような特徴を持った部屋は一般的なポータルサイトよりも、インスタグラムやツイッター、TikTokなどのSNSを活用する方が訴求力があるが、普段付き合いのある仲介会社にそのノウハウがないのだ。
「パーティールームとしての時間貸しでもいいから募集して」と言ったが、こちらについてもやり方がわからないと言われてしまっている。

7年前から、LGBTQの人々の部屋探しを積極的に行なっている不動産会社B社ではこんな話を耳にした。
他社の管理物件に入居希望があった際、空室確認の電話をするときのこと。ほとんどのケースで、「オーナーさんが拒否しているので入居はできない」と断られるそうだ。

「最初は真に受けていたのですが、7年間携わってきて、管理会社はそもそもオーナーさんに説明していないのだろうと思うようになりました。明らかに面倒くさがっているのがわわかるからです」(B社社員)

この会社では、最近、同業である管理・仲介会社に対して勉強会を行い、理解を深めようと動き始めた。

キャリアコンサルタントの資格を持つオーナーCさんは、「自分の物件のバリューは自分で説明していくしかない」と話す。
現在、神奈川県の東海大学の近くに、12戸の賃貸マンションを建設中だ。周辺では学生向け物件が大量供給されており、なんとしても差別化が必要だと考えたCさんは自分の持つ資格を活かそうと思い立つ。そして入居者には何回でもキャリコンサルティングを受けられるサービスを付けることを決めた。

1戸は共有スペースにし、入居者は自由に出入りして、社会人から実際の仕事について話を聞いたり、複数のキャリアコンサルタントに就活相談ができたりしたりする。

家賃は相場より3割高いが、「内定がもらえる物件」として打ち出す予定だ。 

Cさんは今、入居募集時に仲介会社スタッフが説明できるよう、毎週のように仲介店舗を訪れ、説明をして回っているという。

「正直、3割高い設定は怖い。でもそれだけ価値のある建物にしていくという自分への挑戦と誓いでもあります」とCさん。

賃貸住宅のあり様が変わってきている。入居者ニーズだって多様だ。募集の現場はどうだろうか。

同じように変わっていかねばならないだろう。