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【Vol.9】(前編)吉松こころの Go There,Be There「2024年の生き方を考える」

2024.03.04公開

 

スタバが好きすぎて

村瀬裕治さんという昔からよく取材している大家さんがいます。
愛知県豊中市の在住で、現在63歳です。

 この人が「最近、面白い物件を作りました」と連絡をくれたので、見に行ってきました。
どんな物件かというと、壁にスターバックスのタンブラーがずらりとつるしてあってその数200個。
壁だけでなく天井や廊下にも吊るし、さらに壁紙はスタバで撮った店内写真を引き伸ばして作ったオリジナルです。なるほど、スタバの店内にいるかのような雰囲気を感じられる装飾でした。村瀬さんは、一日に一回は必ずスターバックスに行くほどのスタバファンで、室内を店舗のように再現したかったとのことでした。

  •  村瀬さんとスタバの店員さんの写真

 村瀬さんがスタバ好きになったのは数年前。コーヒー、一杯で何時間でも滞在できるばかりか、どの店に行っても店員さんが気軽に声をかけてくれる対応に感動しました。よくよく調べると、従業員一人ひとりが、会社の理念に則りながらも、自分の判断でその場に合わせて最善のサービスをするという社風が根付いていると知ります。

 スタバが好き過ぎる村瀬さんは、さまざまな店舗を訪れるようになり、その都度地域限定や期間限定のタンプラーを買い足してきました。これまで収集したタンブラーの数は、およそ2,000個。ですから、200個吊るしたと言ってもコレクターの1割程度に過ぎません。
スタバ愛が積もり積もった結果生まれたのがこの部屋でした。

「スタバ好きの人に住んでほしい」と、村瀬さんはニコニコ顔で話します。

「たくさんの人に住んで欲しいからマンスリー契約にしようと思っています。家賃は退去する時の満足感で住んでた人に決めてもらってもいいと思っています」

とはいえ、こういうのはちょっと飛び過ぎてはいないかと思う読者の方もいるかもしれません。

 

 私は村瀬さんに、「なんでこんなことしたんですか?」と聞きました。
そしたらこう言われました。

「とにかく自分はスタバが好きなんです」

そして、

「私の夢は世界のスターバックスを回ること」と言われ、さらにこう言われました。

「その夢のために賃貸経営をしています」

 今、スターバックスは、世界に83カ国36,000店舗あります。その中で直営店は18,000店舗。
村瀬さんは今63歳ですから80歳までに全店舗を回るという夢を達成しようと思うと、あと残り17年しかありません。この17年間に18,000店を全部回ろうと思うと、1年間に1,097店舗回らなければならず、月にすると91店舗です。13店舗ずつ回ると、村瀬さんは夢が達成できるという計算です。

 村瀬さんがこの計画を実行するには、世界中を自由に飛び回れる経済力と時間がどうしても必要です。
愛知県下に所有する賃貸住宅、250室がきちんと稼働すれば、安定的な収入は確保されます。
村瀬さんはそれを維持するためとして、入居者サービス費の年間予算を立てています。
その額は、1,000万円。1室当たりにすると年間4万円で、月に換算すると3,000円ぐらいです。
その予算の中で、クリスマスの時期になったらクリスマスケーキをプレゼントしたり、ハロウィーンの時期が来たら子供たちにお菓子を配ったりということをしているのです。
こまめなエアコン清掃や、車の無料貸し出しも含まれます。車に関しては使ったガソリン代も大家持ちという大盤振る舞いです。
つまり、年間1,000万円をかけてでも、入居者さんからクレームが出ないように、トラブルが出ないように、滞納が出ないようにとおもてなしを徹底し、自分の夢の達成のために全力を投じているのです。

 

「そんなの、この人が勝手にやっているだけじゃないか」と、思う人もいるでしょう。

でも、村瀬さんにとっては賃貸経営をする上での大きな大きなモチベーションになっています。

 私は、村瀬さんの話を聞いた時、「こういう賃貸経営の考え方があってもいいんじゃないか」と思いました。いかんせん本人が楽しそうだし、それによって、入居者も本当に喜んで暮らしているのであれば最高じゃないかと。

差別化をするというと、なにか突拍子もない物件を作るだとか、尖った物件をつくればいいとか、派手にすればいいとか、人がやってないことをやることだとか思われがちです。
しかし、どんな時もベースにあるのは、オーナーさん自身が自分のやりたいこと、普段から好きだなと思っていることを大事にする姿勢。そのことがその人らしい賃貸経営を創造し、持続させていくのだと、私は村瀬さんを見ていて思いました。

➡後編に続く。