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【Vol.3】吉松こころの Go There,Be There「管理会社の新しい役割とは」

2023.03.23公開

<著者プロフィール>
暮らしジャーナリスト・吉松こころ
1977年鹿児島県伊佐市(旧大口市)生まれ。 全国賃貸住宅新聞社に勤務。取締役を経て、2015年に独立。 不動産業界向けのミニ通信社、株式会社HelloNewsを立ち上げ、不動産・建築業界で生きる人々を取材している。

管理会社の新しい役割とは

最近、家賃債務保証会社の商品がかなり多様化している。

家賃以外に、水道料金や早期解約違約金、さらには原状回復費用や明け渡し費用なども保証の範囲になっている。

な〜んていうのは、もはや当たり前。そんなのは10年以上も前からのことで、近年は、高齢入居者の見守りや近隣トラブルまで面倒を見てくれるという。

例えば後者の場合であれば、仕組みはこうだ。

入居者が保証料を支払い、家賃債務保証サービスを受けるとする。すると、ストーカーや騒音、近隣とのいざこざ、ごみトラブル、SNSの中傷など、時にかなり個人的な揉め事であっても巻き込まれた場合に、管理会社に代わって専門のスタッフが対応してくれるというのだ。スタッフは、警察OBで組織され、現役の警察官であれば民事不介入で警察が介入できない問題にまで相談に乗ってもらえる。今年1月に福岡で発生したストーカー殺人は記憶に新しいところであり、事件にまではなっていないトラブルは日常のあらゆる場所で起きている。そんな時に役立つサービスというわけだ。

ありがたいことこの上ない“民間警察サービス”だが、ここでふと疑問が湧く。

私が賃貸業界の業界新聞に入社した2003年ごろ、管理会社の仕事は大きく分けると二つだと教えられた。

一つは、「滞納家賃の督促」で、もう一つは、「入居者トラブルやクレームの対応」だった。あれから、20年の月日を経て、両方とも家賃債務保証会社がしてくれるようになっている。しかも保証料を支払うのは入居者自身であり、管理会社は費用をかけずにアウトソーシングできていることにもなる。

「クレーム対応に夜も眠れないくらい悩んでいた社員たちが明るくなった!」と喜ぶ管理会社の声も聞いたが、管理会社の仕事がなくなったわけではないはず。では、クレーム対応から解放された管理会社のこれからの仕事や役割とはなんなのだろう。

私は、一つは「教育」だと思う。オーナーと入居者への双方への教育だ。賃貸経営は複雑化している。「建てたら終わり」の時代はとっくに終わり、オーナーは学ばなければならないことだらけだ。修繕計画、税金対策、空室対策、入居後のおもてなし、高齢入居者や外国人入居者の対応など、挙げればキリがない。知識と心構えを持って賃貸経営に挑まなければ、それこそSNSで叩かれることもあるだろう。

一方、入居者側も同じだ。例えば「善管注意義務」だったり、「管理会社への報告義務」についてしっかりと理解している入居者がどのくらいいるだろうか。賃貸借契約という法律行為に基づいて部屋を借りていることをどれくらい認識しているだろうか。これから先I T重説が進めば、重要事項説明を上の空で聞いている人も増えるかもしれない。

オーナー、入居者それぞれに、「部屋を貸す」とは、「部屋を借りる」とはどういうことなのか、今一度考えさせ、当事者意識を高める場面を増やすこと、それこそが管理会社のこれからの新しい役割だと思う。そしてそうすることで業界が健全に発展していくことになると信じている。