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【Vol.2】吉松こころの Go There,Be There「学び直し」

2023.03.10公開

<著者プロフィール>
暮らしジャーナリスト・吉松こころ
1977年鹿児島県伊佐市(旧大口市)生まれ。 全国賃貸住宅新聞社に勤務。取締役を経て、2015年に独立。 不動産業界向けのミニ通信社、株式会社HelloNewsを立ち上げ、不動産・建築業界で生きる人々を取材している。

学び直し

最近よく、「学び直し」という言葉を聞くことがないだろうか?

「リスキリング」「リカレント教育」とも言われる。「リカレント」は「繰り返す」とか、「循環する」という意味で、学校教育を離れ、社会人になってからでも仕事に関する専門知識を身につけたり、スキルを獲得することをいう。

127日に、岸田総理大臣が、育児中の主体的な学び直しを後押しする旨の発言をし、日本中の母親たちから「育児をしていない人の発想」と非難の爆風を浴びせられたが、あの「学び直し」だ。

総理としては、持続的な賃上げを実現するための方法の一つとして、働き手一人ひとりの能力を高めることが大切だと言いたかったらしい。確かに、身近なところでは、私自身、年々進化するIT機器の操作に四苦八苦しており、社員に頼らねば、コピー1枚取れない時もある。目まぐるしく変わる社会の中で、学び続けることはイコール、社会人としてどう生き残るか、ということでもある。

さて、この「学び直し」だが、日本人の平均時間はどれくらいかご存じだろうか。

なんと、1日あたりの平均は6分。私が、唯一続けている「学び直し」といえば、月に8回(125分)の英語レッスンだが、これも1日あたりにすれば、なんと7分だった。

「日本人は勉強しなさすぎです!」と地団駄踏みつつ教えてくれたのは、香川県高松市で創業92年の工務店、石川組を経営する、石川義和社長だった。

石川組は日本トップレベルの高気密高断熱の住宅を施工しているが、一般的な住宅より高い買い物だけに、「これだけ高い家を建てたのだから、あとは住めばいいだけ」と思うオーナーが多く日々頭を悩ませている。

このため建築後の「住み方」や「メンテナンス」を教える場を定期的に作り、「学び」の場を提供。時には自ら掃除用具を持って自身のスマートフォンで撮影し、メンテナンスのやり方を伝えているという。

「家を長持ちさせるには、品質が高いこと、丁寧な施工であることは絶対条件として、その上で、賢い暮らし方が必須。日本人は家でも家電でも買ったら終わりで使い方やメンテナンスについて全く学ぼうとしない傾向があります」

なるほど、「学び直し」とは、仕事に関することだけでなく、こうした暮らしや生活の知恵に関わることも含めていうのか。それで、私もさっそく、高気密高断熱の住宅に住むときの注意点についてレクチャーをしてもらうことにした。

するとびっくり。目が点になるほどちんぷんかんぷんだった。要は家の温度を一定に保つには、「温度と湿度のメカニズム」や「露点温度」(水蒸気が液体になるときの温度)を知っておく必要がある。これがわかっていないと、どういう時に結露が起き、その結露が元でどんな時にカビが生えてしまうかがわからない。

石川社長曰く、「中学2年で習った理科」だそうだが、すっかり忘却の彼方。現在に至るまで、一度も思い出すことなく生きてきた。学校の校庭の片隅にあった「百葉箱」の話でようやく、湿度には早退湿度と絶体湿度があることをうっすら思い出したくらいだ。

驚いたことに、高気密高断熱住宅が当たり前のヨーロッパでは、この温度と湿度のメカニズムを大人から子供まで当たり前に熟知しているらしい。自分達が快適に暮らす温度や湿度に常にこだわり、自然に温度計や湿度計でチェックし、こまめに状況を見ながら効率的なエアコンの使い方を日々考え生活をしているそうだ。

最初は違う言語を聞いているのかと思っていたような理科の授業も1時間経つ頃には、なんとなく内容が掴めるようになってきた。およそ30年間脳の中で眠っていた部分がじんわり起こされてきたかのような感じだ。

その瞬間、ちょっと思ってしまった。

「学ぶって楽しい!知れるって面白い!」

教室や学校に通うことが全てではない。学びのタイミングは日常の中にもたくさんあるはずだ。そしてそれは、きっと生活を豊かに楽にしてくれるものだと思う。

(吉松こころ)