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【Vol.7】吉松こころの Go There,Be There「現場監督は忙しい」

2023.08.31公開

<著者プロフィール>
暮らしジャーナリスト・吉松こころ
1977年鹿児島県伊佐市(旧大口市)生まれ。 全国賃貸住宅新聞社に勤務。取締役を経て、2015年に独立。 不動産業界向けのミニ通信社、株式会社HelloNewsを立ち上げ、不動産・建築業界で生きる人々を取材している。

 

「本当は建設現場の監督というのは、ものすごく難しい仕事で、品質管理、工程管理、予算管理、安全管理、最近はオーナー管理とか近隣のクレーム対応とかまでやることがたくさんあります。世の中にはいろんな業種がありますが、そこまで一度に求められる仕事というのは、なかなかないと思います」

自身一級建築士で、建設会社や大手デベロッパーで勤務したことがあり、かつ250戸の賃貸住宅を所有するMさんがそう話し始めた。

来年4月に始まる建設業の労働基準法改正(※)を前に、今の職人さんたちの置かれている状況を嘆いてのことだった。

※2019年4月、働き方改革の一環として労働基準法が改正された。これにより時間外労働(残業)は、月45時間、年360時間以内という上限が定められた。
建設業・運送業・医師については、業務の特殊性や様々な課題が残されていることから、5年間の猶予措置が設けられていたが、この猶予期間も2024年3月で終了となり、4月以降は建設業・運送業・医師も上限規制の対象となった。
「突貫工事」「土日出勤」が当たり前の建設業界では、改正することでさまざまな問題が起こると予想され、「2024年問題」として警鐘が鳴らされている。

「一人の監督だったり現場所長だったりが、30業種くらいの職人たち、鉄筋コンクリート、鉄骨型枠、給配水、電機、空調、最近ではIT関係、さらには内装のクロスとか、壁のプラスターボード、家具の造作、キッチン、洗面など相当な範囲の関係者を管理しなければなりません。ベテランもいれば新人もいます。建物や環境は一つとして同じものはない特注品です。加えて、いつ雨が降るか、いつ台風が来るか、想定できない要素が多い。初めての現場で初めて集った職人さんたちをまとめて高品質の建物を完成させるというのは、ほとんど奇跡に近く、ノーベル賞に匹敵すると私は思っています」(Mさん)

この大家さんは、学生時代、トヨタの工場でアルバイトをしたことがあるそうだ。

単純作業が多く、すぐに覚えることはできた。「このネジをここに差し込む」ということを繰り返すわけだが、途中で何をやっていたか忘れてしまう時もあった。すぐさまチェックする仕組みが発動し、すぐに気づいて修正が行われた。

「建物は違います」

コンクリートであれば、一回打ってしまえば後に戻せない。コンクリートを流して、その圧力で鉄筋が本来の位置で固定されなかったということがあっても引き返すことはできない。

それだというのに、世界で日本だけが着工前に完成日を決めているという現実があるという。

「雨が降れば遅れる。コンクリートだって固まるのに時間がかかる。なのに、引き渡し日は何月何日と謳っているのが日本なんです。これは絶対に見直したほうがいいです。そうしないと建設業界は自分たちで自分たちの首を絞めてしまうことになる」(Mさん)

トヨタの工場では、毎日毎日同じ車を生産した。決まったルールに則り、何度もチェックポイントがあってそこをクリアしながら、厳重な品質管理のもとに、車が作られていた。

それでもリコールが起こってしまうことはあった。

「建物には車のようなリコールなはくても、最近建設中のマンションの不良施工が発覚し解体されているのをよく耳にするようになりました。おそらく今後ますます増加するのではと懸念しています」(Mさん)

建物を完成させることがいかに難しいか、大変な仕事であるかを、施主や大家さんたちはもっと知ったほうがいい。インターネットで知識を増やし、情報武装して建設費やリフォーム工事費を安くするよう交渉することも大事かもしれないが、現場監督の仕事を理解し、彼、彼女たちが憧れられたり尊敬されるようにならなければ、担い手は増えない。優秀な人材も入ってこないだろう。そうなれば困ることになるのは、大家さんも同じだ。

Mさんは最後にこう付け加えた。

「建設業界は、昔から3Kと言われてきました。KKK、きつい、汚い、危険 。それをKKK、カッコいい、稼げる、結構もてる、に変えていきましょう。そして新しい3K、KKK、給与、休暇、希望を提唱していきましょう」

【参考】
建設労働者数  
685万人:1997年
485万人:2021年  (出典元:総務省「労働力調査」) 

建設会社の数
600,980社:1999年
475,293社:2022年 (国土交通省) 

工務店の数
226,778社:2000年
146,713社:2022年 (国土交通省)