【Vol.10】(後編)吉松こころの Go There,Be There「2024年の生き方を考える」
こちらは後編になります!➡前編はこちら
自立したいという夢を叶えたい
つい年末に取材をし、とても印象に残っているオーナーさんがもう一人います。
福岡市在住の佐々木一成さん、42歳です。
佐々木さんは、ALS患者専門の賃貸住宅を経営しています。これまでに2棟を建設し、今年もう2棟が完成予定です。
ALSというのは神経性の病気で、1万人に1人の割合で発症します。遺伝も地域も関係なく、突如発症するのがこの難病の特徴です。いつ、どこで、誰が発症するか誰にもわからないばかりか、原因も治療法も未だ解明されていません。佐々木さんが作っているのはそういった方々を受け入れる賃貸住宅です。もちろん、24時間の完全介護、医療体制で、一人の入居者につき、3人のスタッフが配置されています。
- 物件写真
- 室内写真
家賃は4万8,000円。近隣のワンルームと同じです。
ALSを発症して寝たきりになり働くことができなくなった場合、障害者1級となり、障害者基礎年金というものが国から交付されます。また、特別障害手当を含めると年間97万円程度の収入が見込めることになります。家賃は、年間収入の97万円の中から支払えるため、経済的に誰かに依存したり、家族の迷惑になっていると悩んだりすることなく、住み続けることができます。
このため、この物件には全国から入居希望者が集まってきているのです。
「ALSを発症した方々が未来に絶望していくのは、一生誰かの世話になりながら生きていかなければならないという現実に向き合った時。これが大きな心の負担になっています」
結果、半数を超える人々が自死を選んでいる現実を知ったことが、佐々木さんが事業を始めたきっかけでした。
私が初めて佐々木さんに会ったのは2018年でした。その当時は、1棟目のA L S専用賃貸住宅を建設中で、主たる事業は、デイサービスや有料老人ホームの運営でした。
18歳から介護の道に入って現場に携わり、26歳で独立。
初めて会った時は、介護職員の格好をしており、社長とはわからなかったほどです。神経性難病患者という対応が難しい方々を支えていけるのは、介護を知り尽くしているからにほかなりません。
かれこれ6年間、取材を続ける中で、悩んだり苦労する姿も見てきました。けれど、佐々木さんを見ていると、賃貸住宅を経営するということは、誰かの役に立ったり、社会の中に居場所を作ってあげる行為になるのだと気づくことができます。
さて、2024年が始まりました。
先を読むことは、すこぶる難しいです。
ものすごく難しいからこそ、だからこそ、オーナーの皆さん一人一人がどのような理念のもと経営をしていくかということが大切です。
自分の人生でやりたいこととは何だったか。自分にしかできない役割とは何なのか。
自分の持っている経験をどのように生かして、どのように自分らしい賃貸経営を作り上げていくことか、お一人おひとりのイマジネーションが試されています。