【後編】不動産の相続に必要な手続きとは
⇒前編からの続き
不動産の相続に必要な書類
不動産を相続する人は、民法で義務化された相続登記の申請が必要です。
本章では、不動産の相続に必要とされる主な書類について解説します。
・遺言書がある場合(法定相続人が相続)
遺言書があり、不動産を法定相続人が相続した場合に必要な書類として以下があげられます。
【被相続人に関する必要書類】
【法定相続人に関する書類】
※参考:法務局「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」
複数の相続人が存在し、法定相続分によって登記申請する場合は、相続人のうち1名が相続人全員分を申請することが可能です。
不動産の相続手続きのポイント
・必要書類は早めに準備しておく
相続手続きを行う際はそれまでの戸籍謄本を取得する必要があります。
被相続人が本籍地を複数回変更している場合は、複数の本籍地から戸籍謄本を取り寄せなければならなかったのですが、2024年3月1日に導入された戸籍の「広域交付制度」によって、ほかの市区町村役場の戸籍謄本であっても、最寄りの市区町村で一括して取得することができるようになりました。
ただし「兄弟姉妹の戸籍は請求できない」「郵送や第三者による請求はできない」「対象外の戸籍もある」という例外もあり、人によっては「広域交付制度」による戸籍の収集では足りず、従来通り複数の本籍地から戸籍を入手せざるを得ないケースが出てきそうです。
相続登記の書類の取得は時間がかかり、書類の不足や記入ミスがあれば再取得する手間と時間がかかるため、書類の準備は早めに済ませておきましょう。
・書類作成は専門家へ依頼できる
不動産の相続登記の申請には、遺産分割協議書や登記申請書の作成が必要です。
遺産分割協議書や登記申請書を作成するには、不動産の相続に関する法律の知識が求められます。
法律の知識がない人が書類作成をすると、記入ミスや記入漏れが発生して申請先の法務局から訂正や差し替えを指示されるかもしれません。
申請期限ぎりぎりに書類を提出した場合、期限内に申請が行えない恐れもあります。
不要な手間や時間をかけないために、不動産相続の専門知識を持つ専門家に書類作成を依頼することも一つの方法です。
・遺産分割協議は専門家へ相談できる
原則として、登記手続きを行う前に遺産分割協議を完了しておく必要がありますが、不動産に関する協議は揉めやすく、そこで止まってしまう場合が多くあります。
手続きをスムーズに進めるためにも、家族間で遺産分割の方向性が少しでも異なる場合は、不動産にも強い相続専門の税理士事務所などに相談して、公平な立場から提案してもらうとよいでしょう。
不動産の相続で揉めやすい理由は大きく3つあります。
相続財産に不動産が含まれると遺産分割で揉めやすい理由
①不動産は分けにくいため、不公平感が出やすい。
②不動産は維持費がかかるため、押し付け合いになる可能性がある。
③不動産はどの評価基準を採用するかによって、価値の見方が変わる。
それぞれの理由について詳しく説明します。
①不動産は分けにくいため、不公平感が出やすい
不動産は、現金や有価証券のように簡単に分けることができません。
そのため不公平感が出やすく、揉める原因となります。
共有名義で登記する方法もありますが、活用できないといった別の問題が発生するため、安易な共有はおすすめできません。
揉める原因を残さずに相続するためには、できるだけ価値を維持した状態で分筆して分割する(現物分割)、売却して現金化して分割する(換価分割)、1人が不動産を取得し他の相続人に対して代償金を払う(代償分割)など、さまざまな選択肢があります。
あなたにとってベストな選択肢を見つけるために、経験豊富な専門家への相談をおすすめします。
②不動産は維持費がかかるため、押し付け合いになる可能性がある
不動産を相続するためには相続税や登録免許税(登記費用)などが必要となりますが、相続した後も固定資産税や都市計画税といった税金が毎年かかります。
また、マンションやアパートといった収益物件を相続した場合は、メンテナンスにかかる費用を定期的に負担しなければなりません。
これらの出費を上回る収益がその不動産から見込めなければ、赤字の資産ということになり、相続したい人がおらず、押し付け合いのような状況となるケースがあります。
相続したくない場合、相続放棄がシンプルな選択となりますが、その他にも売却による換価分割や、相続土地国庫帰属制度の利用、相続した後で活用することによる黒字化など、さまざまな方法があります。
専門家に相談することで検討の余地が広がり、後悔のない相続となります。
③不動産はどの評価基準を採用するかによって、価値も見方が変わる
不動産は評価基準によって価値が変わるため、どのような評価基準を採用するかによって、遺産分割の結論が変わる可能性があります。
不動産評価の方法は路線価評価、固定資産税評価、不動産鑑定評価などがありますが、遺産分割協議においては民法の定めに従い、「時価評価(実勢価格)」を採用するのが原則です。
その理由は、「相続した不動産を現金化するといくらになるのか」という観点での評価額が、相続人にとって最も公平であると考えられるためです。
一方で、相続税の申告手続きにおける不動産の評価では原則として「相続税評価額」を用います。
そのため、「時価(実際に売れる金額)」との評価差が発生し、トラブルに発展する可能性が高いため注意が必要です。
評価額に不安がある場合は、不動産と相続に詳しい税理士などの専門家に相談し、公平な立場から遺産分割方法を提案してもらうのも良いでしょう。
まとめ
相続する財産に不動産が含まれている場合、相続登記を必ず行う必要があります。
相続登記は2024年4月から義務化されたため、過去の相続分を含め、早めに対応する必要があります。
本記事を参考に不動産の相続の流れを把握し、登記ももれなく行うようにしましょう。
不動産相続は、評価方法や分割の割合など、相続人の間でトラブルになりやすいといわれています。
ご自身での対処が難しいと感じたら、不動産に強い税理士や不動産鑑定士が協働している事務所に相談するのも一つの方法でしょう。
・執筆者
左:フジ総合グループ代表 藤宮 浩氏 不動産鑑定士/相続税還付業務の第一人者として、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿を行なう。
右:フジ総合グループ副代表 髙原 誠氏 不動産に強い相続専門事務所の代表税理士として、年間約990件の相続税申告・減額・還付案件に携わる。
参考:フジ相続税理士法人 https://fuji-sogo.com/